Coffee Talk レビュー ビジュアルノベルをプレイした結果なぜか西洋哲学史の本を買った

ゲーム

長らく積んでいたゲーム、コーヒートークのプレイが一通り終わりましたので感想を残しておくことにします。
フィクションでありながら絶妙なノンフィクション味を感じる、雰囲気の良い作品でした。

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作品のあらすじと全体的な感想

舞台はシアトル、深夜にだけ開く喫茶店のバリスタになり訪れる人々と交流するというもの。
時代は現代、このゲームがリリースされた2020年ではあるものの、この世界には人だけでなく様々な種族が暮らしている。

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エルフ、オーク、ヴァンパイア、狼男などファンタジーな創作物でよく登場する種族たちだ。

劇中の時間がいつも夜。訪れる客たちも様々。いろいろな距離感の会話で話が進むので飽きにくいのも良かった。

普段キャラクターに感情移入して物語を読む方ではないのだが、Coffee Talkは久しぶりに没入感があり新鮮だった。自分がその世界の住人であるかのように感じられて楽しかった。

登場人物のありふれた悩みに自己投影しやすい

店に訪れる客はみな個性的で、少なからず悩みを抱えている。

ルアとベイリースは長く付き合いながらも異種族であるが故に家族の理解を得られず、また家族に対する価値観の違いを理由にぶつかってしまう。

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マートルは重要な仕事を任されてはいるが成果が出ず、先が見えないことに疲れてしまっている。

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売れっ子アイドルのレイチェルは自分はもう大人だと言い張るが、業界を知る父に認めてもらえず顔を合わせると喧嘩ばかり。

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様々な境遇のキャラクターが恋愛、仕事、家族のことなど日々抱える悩み吐きながら夜が更ける。

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私が視点を借りやすかったのはフレイヤだ。彼女は店の常連。普段は新聞で記事や短編の小説を書いているライターだ。いずれは自分の小説で有名になりたいと思っており、名を上げるべく会社の重役に著書の売り込みに成功するが、2週間で原稿を完成させなければならない。

彼女は店に訪れる客たちの話を元に小説を書き上げようとするので、フレイヤはほぼ毎日登場しバリスタと共に客たちと触れ合うことで語り部を務める。

なぜ彼女の視点がスッキリするのかは次の見出しで詳しく書こう。

フレイヤの視点を借りて物語を楽しめた

彼女に感情移入しやすかった理由の一つは彼女が物書きだということ。

私は職業ライターではないが、このように感想を日々書き留める程度には執筆欲があるので、書きたい欲求や書けない苦労などは共感しやすかった。
仕事中に私用で小説の執筆をしているところなどは誉められたものではない。が、私も経験がないわけではない。

もう一つはフレイヤの視点はそのまま読者の視点だという作品の構造だ。
フレイヤは喫茶店に訪れる客たちのエピソードを脚色し小説を書こうとする。人間だけが暮らす世界に設定を変えて。

物語を読みながら「プレイヤーが自身の現実をゲームの世界に投影する事」と「フレイヤが客の物語を自分の作品に落とし込む事」は視点が一致している。

またプレイヤーは「ゲームの世界」をファンタジーとして捉えているが、作中ではフレイヤの書こうとする「人間だけの世界」があり得ないファンタジーとして語られる場面がある。
このようにフィクションとノンフィクションが反転して入れ子になることでゲームと現実が混ざったような感覚があって登場人物に親近感が湧くのだと思う。

だからこそ、視点的にフレイヤが語り部として最適な立ち位置にいるのだと思うし、彼女の目線を借りて物語を楽しむことができた。

逆にバリスタにはあまり感情移入できなかったのだが、理由は全体を俯瞰しすぎているからかもしれない。
それに妙にキザな言い回しが度々あるのも原因の一つ。あんな歯の浮くようなセリフは私の口からはナチュラルには出てこないので。少なくとも真顔では難しい。

気づくと楽しい小ネタがたくさん

あるエピソードで宇宙服を着た客が来店する。ひとしきり話して出ていった彼と入れ違いに来店したフレイヤは奇抜な格好の彼に興味津々でどんな話をしたのか矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。フレイヤは彼を宇宙飛行士だと思ったが、バリスタは彼はおそらく「異星人」だと推測した。

そこでフレイヤが放った一言がこちら。

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「ニューヨークの英国人」的 な、もしくは「エイリアン」的な異星人。
これの元ネタはStingの楽曲「Englishman In New York」だろう。

サビの一節を引用しよう。

I’m an alien I’m a legal alien
I’m an Englishman in New York

”alien”という英単語の本来の意味は外国人だが、主に地球外生命体として用いられる。
カタカナ英語の「エイリアン」などは特にそうだろう。
この曲で「ニューヨークにいる英国人」である私は「合法的なエイリアン」であると歌っている。
英語で外国の人を表す際には具体的に出身地を明言したり「~from abroad」のような表現を用いるのが無難だそうだ。foreignerやalienを使うと失礼に聞こえるのだとか。
歌詞でalienを使っているのは「ニューヨークの英国人」をより際立たせたいからだろう。
Coffee Talkに登場する宇宙服を着た彼はバリスタの推測通り文字通りの「エイリアン」ではある。しかし宇宙から来て地球人の中に溶け込もうとするも却って目立っている様は「ニューヨークの英国人」的でもあるのかもしれない。
昔から好きな曲なので思いがけず出てきて嬉しいパロディだ。

他にもいくつか。

フレイヤが私淑している作家の名前がたびたび上がる。
それがマルキ・ハルカミ。村上春樹のアナグラムだ。

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私は村上春樹を読んだことがないのだが、文体に癖があるので好みが分かれると友人から聞いた。
個人的にすぐ思い浮かぶタイトルは「ノルウェイの森」だ。若いうちに読んでおけと高校の歴史教師に言われた記憶があるが、割とセンシティブな表現が多々あるらしいので高校から大学くらいの間がいいとかなんとか。伝聞の伝聞なのであやふや。1冊くらいどれか買って積んでおこうと思う。

ちなみに10月1日の新聞の小見出しはムラキ・ハルカミ表記になってたりするのでローマ字とカタカナのアナグラムがごっちゃになったのだと思う。

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言語を英語にして確認するとMaruki Harukamiになっているのでマルキが公式っぽい。
こう言うのは問い合わせたらアプデ入るのかね?

あとは明らかにメン・イン・ブラックっぽい人がいたり。

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胸ポケットに刺している銀色の棒は記憶消すピカって光るやつに違いない。

他にも知ってる人はわかるようなパロディがたくさん仕込まれていそうなので、色んな分野に明るいとより楽しめそうですね。

私の日常を大切に

小さい頃、自分が死んだ後のことを考えた時、自分のことを覚えている人がいなくなってしまうことがとても怖かった。おさなごころに歴史に名が残るようなことができればいいと思ったものだ。例えば新しい星を見つけたり、新種の動植物を見つけたり。そういうものに自分の名前が残ればいいなと。

いつからかそういった願望は無くなった。名前だけが残されるのもあまり意味がない気がしてきたからだ。

突然ですが「誰もいない森で倒れた木は音を立てたのか」という思考実験があるらしい。
これの答えは「音はしない」だそうだ。

詳しくないので詳細を語ることが憚られるが、簡単に言うと「認識されないものは存在しない」ということらしい。
つまり、私の人生も私を知らない人からすれば存在しないのだろう。少し飛躍しているが多分そう。
この飛躍的思いつきの所感を述べるに、自分の見える範囲の物事は自分ごととして大切にするのが良いと思う。
拙いながら私も、語られることのない私自身の物語を、自ら綴ろうと思う。フレイヤよろしく。

それはそうと勉強しよ

余談ではあるが「誰もいない森で倒れた木は音を立てたのか」を思いついて語ろうと思ったところ、沼が深かったので今後深く潜りたいと思う。専門的な内容の本を探していたら東京大学の科学史・科学哲学研究室の読書案内が参考になったのでシェアしておく。

http://hps.c.u-tokyo.ac.jp/readings/index.php

倒れた木云々の議題を考えたのは18世紀アイルランドのジョージ・バークリーと言う哲学者だそうです。
彼の答えによると自然の存在を否定して観念以外の何者も認めない姿勢を独断的観念論と言い、のちに様々な形で批判されるそうな。なんもわからん。
この辺りの哲学的な思索には興味があるがよくよく考えると数百年前に語り尽くされているのだろうし、批判も受けた結果昇華されて現代に受け継がれているのだと思うと、ちゃんとした知識を元に語れるようになりたいと思う。

中世、近世のことは大体カントがまとめたらしいから結局「純粋理性批判」読まなきゃいけないんだろうか。
とりあえず西洋哲学史を買ったので読み進めていこうと思う。

ノベルゲープレイして哲学史の本買うのも遠回りが過ぎる気がするが、どちらも楽しいので良いこととします。

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終わりに

話がとっちらかったがCoffee Talkは落ち着いた雰囲気でとても会話のテンポも良くて読みやすい作品でした。

次は似たような作品だけれどVA-11 Hall-Aをプレイしようと思う。リリース的にはこっちの方が先。

Coffee Talkはファンタジー味が強いけれどVA-11 Hall-Aはサイバーパンクな世界観みたい。

待て、ニューロマンサーを積んでいるのを思い出してしまった…

あとCoffee TalkはBGMがとても聴き心地が良いですね。レコード盤もあるみたいです。

それでは〜