すずしい木陰で何も起きなかった。ハンモックの購入を検討している。

まえがき的な何か

久しぶりに映画を見た。

偶然見つけて面白そうだったので勢いで観たが、とても良かった。
ちょっと不思議な感覚。一人で観に行ってよかったと思う。(いつも一人なのだが。)

意識はしていないが、いつもと口調が違う書き方になっている気がするが、それはそれでしっくり来ている。

観る前に時間があったので、観る前の感想→観た後の感想、みたいな流れになっている。

感想

導入が不思議な感じで見てみようと思った。
何も起きないはずなのに、たしかに何か起きている。
ミッドサマーの影響もあるのか、すぐにホラーな展開を思い浮かべてしまった。

しかし、感想を読んで見るにそうではないみたい。ほんとうに何も起きていないようだ。
定点カメラで女性の姿をただ写しているだけ。
それだけで一本の映画になるのか?という疑問。
登場人物に設定はあるようだが、台本も、起承転結もなしに、どのように始まり、どのように終わるのか。
疑問が尽きない。

他の人の感想を読むに、この疑問は映画を見たあとも解決しそうにないようだ。
ならば、その情景に私がどのような感情をいだくのかが興味がある。
それを確かめるためにこの映画を観ようと思う。

ただ、イントロダクションを読むに、唯一の登場人物が自分自身に近いように思う。
年齢とふわふわした状況。どうしようか悩みはするが、解決策はない。
その登場人物の姿に、私自身が直面している答えを探すのもいいかもしれない。

あと30分ほどで上映。近くの喫茶店でこの文章を書いている。
観終わって読み返したとき、どんな気分になるのだろう。
まったくもって楽しみである。

観終わった。

あまりにもたくさんの事が起こっていた。
やはりホラーではなかった。(知ってた。)

起きたこと、覚えていることを上げるだけでも切りがない。

主人公が寝ている。ずっと寝ている。

というわけでもなく、時折目線を遠くにやったり、突然こちらを見たり
私を見ているわけでもないのに、見られているような感覚にとまどう。
主観として誰かとあんなに長時間見つめ合ったのは、人生で初めてのことかもしれない。

最初はきっと何も起きないと言いつつ何かが起こるのだろうという先入観で色んなものが変わって見えた。
ハンモックの奥の木の根元にある影は仏像だろうか?
蚊取り線香ほんとに最初からあった?
画角ちょっとずつ寄ってない?
全部勘違いだった。
画角はそのままだし、全部最初から元の位置。微動だにしていない。
それでも時間の経過とともに小さな変化が積み重なり、少し目を離せば全然違う情景になっている。不思議だ。

うるさいくらいの鳥と虫の鳴き声。
どちらの分野もあまり明るくないので、3〜4種類くらいはいたのだろうか?
ちらりと飛んでくる鳥たちは何羽か確認できたが、それが全てではないだろう。
日が落ちるに従って、煙や虫たちが反射してきらきらする。
まっすぐの線に見えるのは蜘蛛の巣だろうか?
見えないものまで見えてきそうだった。
ずっと同じところを見つめていると目がチカチカする。

時間の感覚がわからない不安がすこしずつ和らいで、日の陰り具合が心地よく感じてきたかと思えば、直視するには眩しすぎるほどに白い。
眩しさに辟易し、目を閉じ、音に集中する。
聞こえるのは変わらず鳥と虫の鳴く声。
水の反響する鈴のような音も聞こえるが、井戸でもあるのだろうか。
足音が近づいて来るが、姿はない。
大きな金属音に気が付いて目を開ければ、起き上がってこちらを見ている女がひとり。
何かを拾って食べる。
日が沈んでいく。

もっとたくさんの事があったはずなのに、こうして書き出してみると1%も思い出せていない気がする。
私の日常の中にもこうして見逃していることがたくさんあって、認知もされず消え去っていくものがなんと多いことか。

最初は粗探しのように隅々までみようとし、疲れて漫然と眺め、一方的に見ているだけなのに唐突に画面の中に引き戻されて、そうかと思えば頬のできものが気なる。
やっぱり不思議な映画だった。

やっぱり何も起きなかった。
たぶん、何も起きないのだろう。
ハンモックを買おうと思う。