作品番号:22-2-21 形式:立体 画材:洗濯物,ベランダ 作:父

父が家にいる。

長く勤めた職を定年前に辞め、2年間で2社ほど転々としたのち、小休止といったところか。若くから休まず働いてきたのだし、他にやりたいこともあるのなら立ち止まってみるのも良いじゃないかと話した記憶があるが、間に受けてくれたのなら嬉しい。

我が家の家事分担の比率を詳しく語れば批判の目は避けることができないだろう。昨今の流れに反し、随分と前時代的だ。

炊事。洗濯。掃除。「家の事」はほとんど母がやっている。大人になって数年ぶりに家に帰ってみると母の労力が大きいことにありがたさと申し訳なさが半々。母の怒りもさもありなん。私も率先して行動することにしよう。

全体の一部分を手伝うことは子供の頃から多々あった。洗濯物を取り込んで畳むのは私の仕事だ。

ある日。父がサッシの掃除をして滑りの良くなったベランダの引き戸を開けると、そこには芸術作品があった。

蛸足を跨ぐように波打つバスタオルの躍動感たるや神奈川沖浪裏にも引けを取らない迫力だ。それでいて端のクリップをしっかり留め置く細やかな仕事ぶりは名匠ミケランジェロも驚きを隠せないだろう。日除けの梁にまでかけられたハンガーは空間を最大限に利用しており最少の洗濯物で圧倒的立体感を生み出している。

この感動を父に伝えると笑みをこぼしながらも不服そうな視線を向けてくる。好意しかなかったのだが揶揄しているように見えたらしい。伝わらないものだ。

数日後、洗濯物を取り込んだ母が興奮した様子で降りてきた。母もまた私と同意見のようだ。

技術の向上は楽しみだが、磨かれる前の荒削りな個性はずっと大事にしてほしい。